The long waiting

If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.

ぼくはアラサー男性で、好きな作品はごはんをおいしそうに描いてくれるはなしだ。

 三十路を迎えて気がついた。時代小説とか、ショートショートとか、ガリレオシリーズとかではない。ごはんがおいしそうなはなしが好きだ。昔から物語が好きでいろんなお話にふれてきた。絵本や紙芝居、テレビアニメ、マンガ、小説、映画、ゲーム、さらには歴史書、ノンフィクション等など、人生の様々な段階で常に何がしかの物語の世界に憧れていた。

 

 親元を離れて大学生になってからは特に読書に費やす時間が増えたと思う。社交的でもないので積極的に友達をつくることもできず、テレビを見ないなんだか知的なことをしてる学生にみられたいという自意識にまみれていたぼくの時間の過ごし方として読書はぴったりだった。ちなみに、「高校出たてのぼくがが考える大人っぽいマンガ」は読書に入るということにしてた。

 

 大学生になった当初はノンフィクションばかり読んでいたが、文学好きの先輩に勧められ村上春樹にどっぷりはまった。初めて『ダンス・ダンス・ダンス』を読んでから一月とまたずに既刊の長編を全て読んだ。さらには短編、紀行文、エッセイ等などにも手を出した。とにかく村上春樹の世界にふれたかった。家族の存在感や周囲とのつながりが稀薄な主人公が生きる修辞的な世界が手放せなかった。そうして、古本屋の投げ売り価格のラックに小説を探すようになった。

 

 「それで、すきな作品は?」と聞かれると、多くの人は作品名で答えたり、もちろんジャンルとか作家の名前で答えたりもする。ぼくは好きな作品とか作風、作家が結構変遷しているのだけれども、最近気がついた。どうやら「ごはんがおいしそうな作品」が昔から一貫してすきだったみたいです。純文学とかSFだとか特殊な能力を持った疎外感を抱えた主人公が登場するはなしだとかじゃなくて、「ごはんがおいしそうなはなし」。三十何歳男性です。

 

 別段美食というわけではない。どうも、そのシーンがすごく印象に残るというか、「ああ!おいしそうだなあ!」と思うと作品にものすごく没入できる。結果、その作品も好きになるということだと思う。だから、実写とかよりもアニメや文字で伝えてくれる作品にごはんがおいしそうで惹かれます。

 

 おいしそうなごはんを食べるシーンは、みててよだれがでちゃうというだけじゃなくて、登場人物が生きてる実感とか、あるいは彼ら彼女らのすごくエネルギッシュな側面にふれられている感触がある。細田守村上春樹、宮﨑駿、佐藤優あたりがとくにご飯描写が好みです。

 

 例えば、細田守時をかける少女』では、サブウェイぽいサンドウィッチを主人公が口に含んで歯を通してパンに圧力がかかり凹んで、噛みきったときに圧力が失われた結果「ぷるん」とパンの元の形に戻る。すっごくおいしそうっておもっちゃう。宮﨑駿『ハウルの動く城』ならカルシファーで焼いた厚めのベーコンエッグ。佐藤優『自壊する帝国』のロシア料理等など。村上作品のごはんを再現する『村上レシピ』買いました。

 

 でも、ごはんでいろいろ解決するメシマンガは今まで興味持ったことなくて。まとめると案外自分の好きな作品の共通点は、自分が気がついていないところにあるのかもしれないという話です。今月発売の『騎士団長殺し』もおいしい食事のシーンがあるといいな。

  

時をかける少女 [Blu-ray]

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 ぷりっぷりの新鮮なサンドウィッチが時をかけられる女子高生に食べられるアニメ

 

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

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  「肉がかりっとしてジューシーで、トマトケチャップがとことん無反省で、美味しく焦げたリアルな玉葱のはさんである本物のハンバーガー」とハワイのビーチで味わうピニャ・コラーダの本

 

 

 

自壊する帝国 (新潮文庫)

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   ソヴィエト連邦モスクワ大学共産党高官の師弟たちと山盛りのイクラやキャビアでウォッカを空け、物価の差を利用して高級レストランで飲み食いしたりする回想記