真摯な観察と提言―慎泰俊『ルポ 児童相談所―一時保護所から考える子ども支援』
いろいろあってなかなか更新出来ていない。今日は以前読んで感銘をうけた本の要点だけメモった文章をアップロードする。
告発では、解決しない
社会起業家である著者が自ら住み込み、
取材し、課題解決の方向性を提言する
児童相談所併設の一時保護所は、虐待を受けた子どもや
家庭内で問題を起こした子どもらが一時的に保護される施設。
経験者の声は「あそこは地獄」「安心できた」と二つに分かれる。
社会企業家である著者自ら一〇ヵ所の一時保護所を訪問、二つに住み込み、
子供たち、親、職員ら一〇〇人以上のインタビューを実施。
一時保護所の現状と課題点を浮かび上がらせ、
どのように改善したらよいのか、一方的でない解決の方向性を探る。
児童相談所の特に一時保護所についてその実相を統計データと行政を含む多様な主体からのインタビュー、自身の保護所への住み込みから報告し、その解決策を提言する。
一時保護所とは児童相談所の中の施設で、非行少年、被虐待児、児童養護施設や里親家庭に入る前の子どもが一時的に入る場所だ。平均一月程度の滞在をした後に(1)子どもたちは実家庭に戻るか、(2)里親・児童養護施設等(社会的擁護)に措置されるか、(3)特別養子縁組を受ける。筆者の関わった子どもたちは口をそろえて一時保護書を嫌な場所として語るという。
さて、主題の一時保護所だが、例えば都心のあるところでは精神的な不安定な子ども同士のトラブルを避けるため、「子どもたちが脱走しないため」として、とにかく威圧的な仕組みが取られている。窓は5cmしか開かない。使用できる紙は通し番号が振られのちに回収される。一時保護所間には格差があり、よい一時保護所(福祉職が過半数をしめていたりする)もあることはあるが、酷いところは刑務所のようだ。
さらに、実際のインタビューの結果を見てみると、運営側が人道的に運営しているつもりでも、こどもたちは真逆に捉えていたりする。厚労省の運用指針では自由の制限をできるだけ留めるようにとしていも、運営上は様々な理由を付けて上記のような管理が行われ、こどもたちの勉強もままならない状態だ。厳しい規律への違反には実質的な罰が下さされる。本来は両輪として必要なはずだが、家庭的な養育が欠け、学校的な規律的教育が色濃い施設が多い。
そもそも、一時保護所への保護は、児童相談所が通告を受けることからはじまる。虐待や非行等の場合に保護が必要とされており、個々のケースでは保護はその必要性や緊急性の観点から検討される。筆者はこの一時保護後、子どもが児童相談所で過ごすのでなく、「鳥取こども学園」等を例にあげながら里親や施設の部屋、すなわち民間で預かる一時保護委託が好ましいという。また、平塚市のように地域に児童相談機能を持たせ、一方で児童相談所は家庭支援と職権保護のような家庭介入を分けることで、効率的かつ家庭や子どもへの負荷をへらして本来の目的が達成できる。
もう少し俯瞰的に自体を捉えてみる。集計上留意すべき点はあるものの、虐待通報は増加の一途をたどっている。この背景として貧困家庭の増加が、家庭を児童にとって過酷なものとしている。児童福祉司の数は全く足りておらず、児童相談所が子どもとその親の問題をすべて一手に抱えている状態だ。膨大な業務の一極集中によって、業務はパンクし、外部の監視も届かなくなってしまう。
さて、以上を踏まえて、最後に筆者は解決のために三つのレベルから必要な取り組みを提言している。
政治レベルでは難しくても子供向けの支出 は社会への長期的な支出であることを考えて支出を抜本的拡大すること。
行政レベルではよい児童相談所の特徴である福祉職とベテラン職員を増やす人事改革と外部監査の導入すること。
そして、民間レベルでは行政のリソースではすべてを賄えないと認めて、児童相談所の機能を地域で引き受けること(特に学校を巻き込むこと)、特に原則一時保護を委託として、児童相談所内での保護を斎行源にすること。
ルポ 児童相談所: 一時保護所から考える子ども支援 (ちくま新書1233)
- 作者: 慎泰俊
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2017/01/05
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (2件) を見る
目次
はじめに
序章 「一時保護所」とは、どういう場所なのか
第1章「一時保護所」で、子どもたちはどう過ごしているか
(1)子どもたちの一日
(2)保護所感格差は、なぜ起きているのか
第2章 子どもたちの生活環境ー様々な証言から
(1)職員と、そこで生きる子どもたちのギャップ
(2)一時保護書の運営を規定するもの
(3)ルールを破ったら、どうなるのか
第3章 児童相談所と一時保護の現状
(1)「むしろ、かかわらないでほしい」という意味
(2)なぜ、子どもたちは一時保護所にやってきたのか
(3)一時保護決定後、保護所での生活が始まる
(4)一時保護委託の拡大がカギ
(5)児童相談所は、どうあるべきなのか
(6)増加する貧困と虐待
コラム①等価可処分所得はなぜ平方根で割って計算するのか
(7)激務に明け暮れる児童相談所
第4章 よりより子ども支援のために
(1)行政ができることは何か
(2)民間の人間にできることもある。