The long waiting

If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.

猫が死んで二週間がたった

猫が死んだ。気持ちも落ち着いてやっとこの文章が書ける。

 

仕事が終わってだらだら酒を飲んでいるときに、母からの電話で猫のこれまでにない衰弱を知った。次の日の仕事を休み、朝から少しでも早く帰るために一番早い新幹線に乗った。指定席に座ったが、時間を持て余して『ディア・ドクター』をkindleで観た。素敵な映画だった。主人公の痛みと、人と人とのすれ違いと、それでもどこかに残る真心を表現した作品だった。

 

最寄りの駅についてからタクシー乗り場まで本気で走って、捕まえたタクシーの運転手にはとにかく急いで下さいと伝えた。生まれて初めてチップも払った。目的地についてタクシーから実家までも本気で走った。そうして出会った眼の前の猫はなんとか生きていて、その様子を見たおれは極端な緊張が溶けて嗚咽を漏らして泣いた。本当に、涙が止まらなかった。

 

実家に帰って一緒にいる時間を過ごすことで、最後のお別れはできた。彼女が実家で死んだのはおれが東京に帰った次の日のことだった。

 

彼女はおれの生き方にとんでもないくらい影響を与えた生き物だ。おれは彼女のことを好きだったし、愛していた。当初は2日だった滞在期間を、彼女と一緒にいるために1日伸ばした。3日間、彼女にいろんなことを話しかけていた。これまでの感謝だったり、初めて出会ってから一緒にいて嬉しかったことなんかだ。

 

彼女の死の前後で6回泣いたが、死ぬ前に4回泣いた。実家から東京に帰る車中、映画で潰せなかった時間に『対象喪失 悲しむということ』を読んだが、ピンとこなかった。でも、本によれば死ぬ前に悲しめることは、立ち直りの早さに影響するらしい。

 

彼女がこの世からいなくなってもう二週間が立つ。カウンセリングの場でも色んな思いを話してきた。彼女がいない世界を生きるということ、もっと彼女の苦痛の少ない死のために努力すべきだったとか、彼女が人間関係の緩衝材になったことでクソみたいなメンバーでも家族という擬制が成り立ったとかそういうことだ。

 

でも、今、彼女がこの世界からいなくなって、彼女の眼前で嗚咽を漏らしてから火葬場で白い粉に姿を変えるまでの経験を振り返って、とても実感したことがある。

 

彼女との3日間の話だ。予定外の3日目、彼女とお別れをするとき、おれはどうしても言いたいけど面と向かって言えない感情があった。それはつまり、おれは彼女が好きっていうことだ。すごく好きで、どうしようもないくらい好きだ。いままでちゃんと言わなかったけど彼女に好きってことを言いたいなってたまらなく思った。

 

どうせ猫だし何言ってるかわかんねえ、言ってもすぐ死ぬってわかってたけど、彼女に好きだし愛してるって言わずにいられなかった。身体からはひどい死臭がしてた。でも、自分の鼻を擦り付けて好きだし愛してると声に出して伝えた。報われなくても愛を表現したかったんだ。それで本当に救われたと思う。

 

たぶん、今までおちゃらけた感じで好きだっていうことは言葉にしてきたけど、そこまで面と向かって本気で語ったことはなかった。

 

おれは、みゅんが好きだった。8月に会ってお別れをした気持ちだった。でも、今回自分の気持を直接表現できて、本当のお別れをできたと思う。彼女の死から今日まで本当はもっともっとカオスだったけど、おれは彼女との内面的なお別れを実現しつつある。

 

二週間立ってはっきり思う彼女との別れから実感したこと、学んだことはこんなことだ。

 

自分がたまらなく好きな人がいる。そして、好きって思えている瞬間はどうしようもないほど素敵な時間だ。どうしても会いたい人には、待つんじゃなくて自分から会いに行こうとしたい。好きだったり、大切にしたいのであれば、その人のことをどれだけ大切であるかを伝えて優したい。ひょっとしたら、迷惑かもって思われるかも、うけとめられないかもって思っちゃうけど、すくなくとも表現して気持ちを伝えられたっていうことがすごく自分の人生にとって大切なんだ。

 

最後の3日間で、気持ちを整理できたことを本当に実感している。そして、彼女自身がそんな風に素直に自分の気持を表現して生きてきたことに思い至って心底感謝した(素直なおかげで飼い主としては死ぬほどうざい時もあった)。

 

この文章を読んだ方には、彼女のように、自分の本音に生きて、恥ずかしくても自分の誰かを大切に思う気持ちを大切にしてくれたらなって思う。

 

彼女の遺毛と、お別れまでつけていた首輪の鈴は、今おれの眼の前にある。彼女はもうこの世界にいない。

 

明日も明後日も、誰かを大切に思う自分の感情に素直に生きていきましょうよ。もちろん気持ちが届いても受け入れてもらえないこともある。でも、自分を大切にするって、相手に受け入れられなかったり報われないかもっておもってひっこめることもある自分の気持を大切にして、本気で表現していくってことじゃないですか。本当にそう思えた。

 

みゅん、ありがとう。さようなら。

 

対象喪失―悲しむということ (中公新書 (557))

対象喪失―悲しむということ (中公新書 (557))